「37.3」

体温計は無慈悲にも、そう評価を下した。
諦めきれずに額に手を当てると、ほんのり発熱していることが嫌でも分かってしまい、小さなため息をつく。
夕べから怪しいとは思っていた。やや体がだるかったし、いつもより食欲もなかった。
でも、と望美は考える。
今日は金曜日で、明日は土曜日だ。ようやく、あの人とゆっくり過ごせる時間が廻ってきたのだ。
熱といえば熱。だけど、微熱に過ぎないのなら。軽い発熱ぐらいなら。

「会いに行くぐらい、平気だよね――」




甘い熱




休日になると、望美は決まってリズヴァーンのマンションを訪れる。
どこかに出かけたり、彼の働く道場で剣を打ち合わせることもあるが、もともと彼が人ごみをあまり好まないので、二人
は会うと、部屋の中で過ごすことが多かった。
それで、一日中何をしているかというと、感心なことに、勉強なのである。

異世界からやってきたリズヴァーンは、白龍が頑張ったせいか、こっちの世界にれっきとした戸籍と一応の履歴が存在
していた。
両親とも既に亡くなっているとか、アイルランド国籍の生粋の外人だが育ちは日本だとか、日本フリークの両親の影響
で幼いころから剣道を習っていただとか、本人も初めて知る「生い立ち」が、しっかり用意されていたのだ。
とはいえ、それはあくまで、書類上の問題が解決されたに過ぎない。
リズヴァーン本人にそういった記憶があるはずもなく、当然、身の回りの細々した知識は全て白紙の状態だった。
そのためこっちにやってきた当初、望美と有川兄弟は、毎日必死で彼に日常生活のイロハを叩き込んだ。
何しろ「横断歩道の渡り方」から教えなくてはならないのだ。34歳にそれを教え込む17歳、という構図は、傍から見て
いると少々奇妙であるものの、おろそかにすると命に関わることである。幸い、リズヴァーンは生徒としてはかなり優秀
だったので、数日もしないうちに、およそこの世界でマトモに生活するのに必要な知識を全てマスターしてしまっていた。

あと彼に欠けているものは、それこそ、小中学校に通っている間に習得する、義務養育レベルの知識である。
古典と日本史の一部分だけは、学者も真っ青なほど博識な彼だが、さすがに化学反応がどうとか、放物線がどうとかと
いった知識は持ち合わせていない。将臣などは、そんなの一生に一度も使わないから詳しく覚える必要なんかない、と
公言してはばからないが、この世界のことを少しでも多く知りたいと、他ならぬリズヴァーンが前向きな姿勢だったの
で、休みがあるごと、二人はこうして勉強会を開くことにしたのである。

居間のテーブルに二人で座り、教科書とノートを広げ、かりかりとペンを走らせる。
見た目と呼称はリズヴァーンが「先生」なのだが、実際の「先生」は望美のほうだ。彼の問いに答え、分からないところ
を解説する。
――教えられてばかりだった彼に、ようやく恩返しが出来る。
そう考えると、望美はあちらにいたときとは逆転した関係が、少しばかりくすぐったくもあり、嬉しくもあった。

「……で、これを電気分解っていうんです。分かりましたか?」

「ああ――なるほど」

うなずいた彼を見て、ふう、と望美は何気なく息を吐き出した。
リズヴァーンが顔を上げ、軽く目を細める。

「――疲れたか?」

「え? ううん、大丈夫ですよ」

「……」

じ、と意味深な間を持って見つめられ、望美は少々まごついてしまう。
まさか、と懸念が脳裏をよぎった瞬間、彼の手が伸びてきた。指がそっと頬に触れ、同時に眉をひそめられる。

「熱い」

端的な表現に、

「そんなことは!」

と反射的に否定するものの、元来が鋭いリズヴァーンを誤魔化しきれるはずもない。

「その反応……もしやと思うが、お前は自覚していたのか? 熱があると」

かえって咎めるような視線を向けられる。
すっぱり本質を見抜かれてしまい、望美は「あ」とも「え」ともつかない声を出して、視線をさ迷わせた。
分かりやすい反応に、リズヴァーンは小さく嘆息して、それから望美を手招きする。

「額を貸しなさい」

……こうなっては仕方ない。
実のところ、朝方より大分体温が上昇していることを自覚していたので、望美は大人しく身を乗り出して、彼におでこを
近づけた。
目を閉じたのは、ほんの条件反射に過ぎない。望美は当然のように、彼の手の平が額を覆うと信じて疑っていなかっ
た。
ところが、現実には。
こつんと額に当たった暖かい存在。急に近くなった吐息に、どきっとして目を開ければ、すぐ目前に長い睫を伏せた瞳
があって。

「やはり……熱いな。軽い風邪だろう」

額と額を触れ合わせたまま、リズヴァーンがつぶやく。
話すたびに唇をくすぐる熱い息が、彼とキスを交わしたときのことを鮮明に思い起こさせて、望美は瞬く間に顔へ血を上
らせた。
風邪による発熱との相乗効果で、目の周りがじんじんと熱くなる。その様子に気づいて、くすり、と彼は笑みをこぼした。

「――また熱が上がったようだが?」

含み笑いの声。理由を知っていてあえて問うからかいの台詞。
元気なときならば威勢よく反駁しただろうが、いまひとつ熱によって体力を削がれていた望美は、すねたように唇を尖ら
せる。

「……誰のせいだと思ってるんですか」

真っ赤な顔で、むう、と睨んでやれば、リズヴァーンは苦笑する。それから、いきなり望美を抱え上げた。

「わっ……!」

「とにかく、今日はもう勉強は終わりだ。熱が下がるまで、ゆっくり休んでいなさい」

望美の体重などカケラも負担に感じていない軽捷な動作で、自分の寝室へと運ぶ。
でも、と望美は口を開いた。

「だ、大丈夫ですよ、これくらい。平気です、だから下ろしてくださいっ」

足をばたつかせると、希望どおり下ろしてはくれた。
ただし、そこは彼のベッドの上で、抵抗する間もなくばさりと毛布をかけられてしまう。

「無理は禁物だ。風邪はひき始めが肝心と、よく言うだろう。いいから、寝ていなさい」

「だけど……! せっかく、先生に会いに来たのに……」

言いさして、望美はうつむく。
一週間。ずっとずっと、彼に会ってゆっくりすごせる土曜日を心待ちにしていたのだ。
学校に通いがてら、彼に会いに行かなかったわけではない。それでも宿題に仕事に、お互い忙しい身だ。
逢瀬はいつも時間との勝負で、だからこうして緩やかな時間を共有できるチャンスは少ない。少ない分、切望していた。
……なのに、風邪を引いてしまうなんて。

私ったら馬鹿、と思わずつぶやく。もっとちゃんと体調管理をしておけばよかった。
そうすれば、彼に迷惑をかけることもなかっただろう。

「望美」

ふわ、と頭に大きな手の平が乗せられた。顔を上げると、リズヴァーンが静かに微笑んでいる。

「お前はこの世界に不慣れな私のために、毎週毎週さまざまな事を教えてくれた。この世界に来てから、私はお前の世
話になり通しだ。――感謝している、望美。だから、たまにはゆっくり休んでくれ。たまには私に、お前の世話をさせてく
れ」

独特の低い声が、甘い響きを伴って望美の耳に届く。その表情が、端麗な挙措が、音の響きが、心を溶かして包み込
んでいく。
――不思議だ。彼の声はどうしてこんなにも、私の不安や自己嫌悪をあっさり融解させてしまうのだろう。
ぼうっとしてリズヴァーンを見上げる望美。その額に、優しく口付けを落とし、彼はそっと身を翻した。

「――寝ていなさい。今、何か暖かい飲み物を作って持ってこよう。案ずることはない、お前の夢路は私が見守ってい
る」

一回で数百人の女性の心を射止められるであろう、極上の微笑と台詞を惜しげもなくさらす。
あまりの美麗さにあてられ、こくん、と望美はうなずくことしか出来なかった。
それを受け、もう一度笑んでから、リズヴァーンは台所へと姿を消す。

一人残された望美は、熱い息を吐いた。熱のせいか、彼の台詞のせいか。もはや彼の進めに逆らう気力もない。
ちょっと額に触れてみて、先ほどの彼の唇の感触を思い出して、また赤くなって。
このままだとますます顔に熱が上りそうだったから、ずるずると毛布をひっぱり、その中へ包まりこむ。そして。

「…………」

うわー、と思わず情けない声でつぶやいていた。
望美が寝ている広いベッドは、当然のごとく普段リズヴァーンが使っているものだ。
それゆえ、枕からシーツから何から何まで、彼の匂いが染み込んでいるのである。それはもう、ばっちりと。
むせかえるほどの馨しさに、自然と体中の血液が逆巻き、眩暈を感じるほど視界が揺れた。きゅん、と鳩尾の奥が甘く
絞られる。
こうして横になっていると、まるで彼本人に抱きしめられているかのような錯覚を覚えてしまい、かっかかっかと顔が火
照る。
――ゆっくり休むどころじゃないよ、これじゃ……。
恥ずかしさに内心独り言ちたものの、息も出来ないほどの緊張感がかえって功を奏したのか、リズヴァーンが台所から
戻ってこないうちに、望美はうとうとと眠りの世界へと旅立ってしまっていた。





ふわふわ、ふわふわ。
甘くてちょっと香ばしい、食欲をそそるいい香りがする。日本人ならば誰しも反応せずにおれない、これはおしょうゆの
香りだ。
そういえばお腹が減ったと、望美はほっかり目を開けた。睡魔が脳を覆っていて、しばしここがどこか分からない。
辺りを見回して、自分の部屋じゃないことに気づいたとき――わっ!? と短く叫んで飛び起きる。
――私、すっかり、眠っちゃってた!
わたわた現状を把握し損ねて慌てていると、

「起きたか。……よく寝ていた」

どこか感心したように笑って、リズヴァーンが寝室に入ってきた。手にトレイのようなものを持っている。

「先生、今何時ですか? 私、どのくらい眠って……?」

「そうだな」

チラリと壁掛け時計に視線を走らせ、彼は肩をすくめる。

「もう12時を少し回ったところだから、2時間半ぐらいだろう」

「――……」

望美は両手で顔を覆う。
――――やってしまった。2時間も、リズヴァーンの前で爆睡してしまった!!
えもいわれぬ気恥ずかしさがこみ上げてきて、その場で撃沈する。何しに来たんだ自分、と、とても己に突っ込みたい。
真っ赤になって頭を抱える望美を、笑いをかみ殺しつつ見やり、彼は椅子をベッドの横へ持ってきた。
腰を下ろすと、手にしていたトレイをベッド横の棚へ乗せる。そこには、一人用の小さい土鍋とお椀、レンゲ、切った林
檎があった。
土鍋の蓋を開けると、ほわっと湯気が立ち上り、同時に何とも美味しそうなしょうゆの芳香が広がる。
刻みネギを散らしたあつあつの卵雑炊に、望美がついくんくん鼻を動かすと、リズヴァーンは優しく訊いてきた。

「昼食は、これでいいか?」

爆睡した挙句、お昼ご飯まで作ってもらっちゃった望美としては、「よくない」と答えるはずがない。
それでなくとも彼の作る料理がとても美味しいことは、あの譲でさえ認めているし、恋人の好意を無碍にする女性など、
いやしないだろう。畏れ入って、小さく頭を下げる。

「ありがとうございます。……先生の分は?」

「私は先に済ませた。――だいぶ熱は下がったようだな。顔色も良くなっている」

伸びた手が額に触れ、それから安心したように肩の力を抜く。
確かに、いったん眠ったのがよかったのか、朝ほどの発熱は感じられなかった。

「おかげさまです。先生に迷惑かけ通しですけれど……」

恐縮すると、やんわりたしなめられた。手際よくお椀に雑炊をよそいながら、

「言っただろう、たまには私にお前の世話をさせてくれ、と。それでなくとも、病人は大人しくしているのが務めなのだか
らな」

やれやれ、といった風情で微笑まれる。その様子があまりに楽しそうだったから、望美もつられて笑みを浮かべた。
――が、しかし。
その笑顔が0コンマ3秒後に凍りついたのは、リズヴァーンがレンゲで雑炊をすくい、そのまま望美のほうへと差し出し
たからだ。
断じて、柄の方じゃない。片手でお椀を持ち、片手でレンゲを持って……前に差し出す、その格好は、どう見ても。
いわゆる、「あーん」をして食べさせようとしているに他ならない、構え。
石化する望美に、リズヴァーンは平然と言ってのける。

「口を開けなさい。――私が食べさせよう」

次の瞬間、下がったはずの望美の熱が、急激上昇した。

「そ……そこまでしてもらわなくても、大丈夫ですよ。自力で食べられますってば」

そう言って腕を伸ばすが、リズヴァーンはひょいとお椀を上にあげて、阻止してしまう。

「病人は大人しくしているのが務め……と、これもさっき言ったはずだが?」

「でもほら、もう熱も下がったことですし!」

「駄目だ。また頬が赤みを帯びているではないか」

しれっとした台詞に、う〜っと思わず歯噛みをする。だからそれは、明らかに彼のせいだというのに。
そもそも敏いリズヴァーンが、そのことに気づかないはずないのだが、彼は全てを知った上で、あえて何も存ぜぬフリを
決め込んでいるようだ。お椀を渡すつもりも毛頭ないようだし、これではいつまで経っても一進一退だ。

普段の望美ならば、もう少し粘っただろうし、他に打開策がないか、思考をめぐらせることが出来たに違いない。
ところが何分風邪人のため、全体の抵抗力が薄れている。反駁する気力が、なかなか湧きあがらない。
上手く考えを働かせることが出来なくて、それで結局、彼の言われるがまま、おずおずと口を割ることしか出来なかっ
た。
一方のリズヴァーンは満足したように笑い、慎重にその口元へとレンゲを運ぶ。
すごく小さい子供になったみたいだったし、何よりリズヴァーンに食べさせられていることを意識すると、その場に崩れ
落ちてしまいそうなほど恥ずかしかったが、口に含んだ雑炊は出汁の香りが生きていて、とてつもなく美味しかった。

「熱くはないか?」

「はい。……すごく美味しいです」

「それは、よかった」

てらうことなく破顔し、次の一匙をすくう。
軽く吹いて冷まし、こちらが飲み込むのを待ってまた運んでくれる、細やかな気遣いが心に暖かい。眼差しが驚くほどに
優しい。
ふと、リズヴァーンが親になったような気がして、望美は陶然と目を閉じる。
――絶対、彼はいいお父さんになるに違いない。料理も上手いし、意外と細かい気配りもしてくれる。
寡黙だけれど、時に優しく、時に厳しく、溢れるほどの誠実さと純粋さを持ち合わせているのだから、子供からしたら理
想の父親像なのではないだろうか。
そこまで考え、ちょっと顔を赤らめる。まだ先の話だからどうなるかは分からないものの……願わくば。
願わくば――彼が本当に父親になったとき、その子供の母親は、自分であって欲しい――――

「……望美? どうした、急に勢いよく首を振ったりして」

「え!? あ、あはは、何でもないです、はい」

まさか、自分の妄想に照れまくってしまったと言うわけにもいかない。適当に言葉を濁しておく。

――あー、もう。私ったら、何、変な事を考えているんだか……。

熱のせいか何なのか、普段より変な方向に思考が飛びがちだ。一つ咳払いし、その後は慎ましやかに食事に集中する
ことにする。
雑炊を食べ終わると、今度は一口サイズに切った林檎を、これまた彼に口へ運んでもらう。
鳥の雛にでもなったような気分だったが、親鳥にあたるリズヴァーンが幸せそうなので、だんだん「ま、いっか」という心
境になってきた。羞恥心を乗り越えてしまえば、言葉を交わしながら過ごす時間は楽しく、望美の警戒は富に薄れてい
った。
…………それが、ある種、彼の仕掛けた功名な罠だとも知らず。

「ごちそうさまでした」

全部食べ終えてしまい、両手を合わせて挨拶すると、にっこりとリズヴァーンが笑う。
京にいたころは間違いなく貴重だった彼の笑顔も、こちらの世界に来てからは、頻繁に見せてくれるようになった。
彼との距離が縮まっていっていることの証明にも思えて、嬉しいなあ、と望美がほんわかした想いを抱いていると、いっ
たん台所にトレイを置いてきたリズヴァーンが、今度は風邪薬と水を持って戻ってくる。

「お前が寝ている間に、薬局へ行って買ってきたのだ。良く効くそうだから、飲みなさい」

水の入ったコップと、錠剤を三粒差し出される。しかし、その薬を見て、望美はうわっと顔を引きつらせた。
それは彼女も良く知る有名な風邪薬で、確かに効き目はバッチリなのだが、反面、今の薬にしてはありえないほど苦い
という欠点も持ち合わせていた。一度飲んでその味のすごさは経験済みゆえ、二つ返事で受け取ることが出来ず、覚
束なく視線を揺らす。

「……どうしても飲まなきゃ駄目、ですか……?」

上目遣いにこっそり訊くと、打てば響くタイミングで返される。

「駄目だ」

「そ、そこまでオオゲサな風邪じゃないですし!」

「――、ひょっとして、薬を飲むのが嫌なのか?」

また、たちどころに内心を読まれてしまった。
望美が分かりやす過ぎるというより、これはむしろ、彼女に関してリズヴァーンが鋭すぎると言うべきだろう。

「ううう……だってその薬、とても苦いんだもの……」

うなだれてぼそぼそと弁明すると、ふう、と軽くリズヴァーンが息をついた。

「良薬口に苦し、と言うだろう。……嫌だと言っても、私が飲ませよう」

その瞬間、キラリと彼の瞳が光ったことを、残念ながら望美はうつむいていたせいで目撃していなかった。
いや、リズヴァーンの行動を警戒しなかった理由は、それだけではない。
風邪のせいで判断力が低下していたから、だとか。
雑炊の例からいって、「飲ませる」という行為はせいぜい、薬を口の中に入れてくれる程度のものだと勘違いしていたか
ら、だとか。
後になれば色々敗因は思いつくものの、まず何といっても、リズヴァーンが錠剤を自分の口に含み、コップの水をあお
った現場を直視していながら、それが何を意味するのかとっさに理解し損ねてしまったのが、痛かった。
結果として。

きょとんとする望美の頬に、手が添えられる。と思ったら、一息に彼の顔が近付いて、唇を塞がれていた。

「――!? ん――っっ!!」

突然の事態に、望美は恐慌状態に陥った。反射的に上体をそらして逃げようとするものの、かえって彼はその勢いを
利用し前傾姿勢になって、どさり、とベッドに押し倒されてしまう。
こうなると、もう逃げ場はない。例えまったくの健康体だったとしても、体格差からいって、彼の下からの逃亡は不可能
だ。
何で急にこんなことにッッ!! と、望美は頭が真っ白になっていたが、薄く開いたリズヴァーンの唇の間から、水と一
緒に錠剤が流れ込んできて、ようやっと意味を把握する。

…………「飲ませる」とは、こういうことだったのだ――――。

今の望美に出来ることと言えば、彼に与えられるまま、懸命にごくんと喉を鳴らし、水と薬を飲み込むことだけ。
確実に苦いはずの錠剤は、しかし、状況が状況だけに味なんて感じる暇もなかった。
ある意味、不幸中の幸い、と言えなくもないかもしれない。

――が。
薬を飲み終えても。水を全部、嚥下しても。
リズヴァーンは口付けを止めようとはしなかった。角度を変え、深さを変え――それはどう考えても、目的が変貌してい
る動き。
ようやく離れたかと思えば、実は望美に息を継ぐ暇だけを与えたのであって、行為そのものは止まらない。
柔らかく食むような、それでいて吐息さえ奪うような唇の動きと、そっと髪に差し入れてすく、手の優しい動き。
不意打ちでこんなことをされ、正気でいられる人の方がおかしい。
じっくり時間をかけ、やっと満足したリズヴァーンが離れたとき、望美は……気絶、一歩手前まで追い込まれていた。
視界がぼやけ、バクバク鳴っている心臓と、渦巻く血の音で、頭がくらくらする。

「……、――、………………」

陸に上がった金魚のように、はあはあ口を閉口させることしか出来ない望美。
彼女を両腕の中に閉じ込めたリズヴァーンは、まだ飽くことなくその額や頬にキスを落としながら、耳元で低く囁いた。
それは、実に甘い詭弁。

「そうだ……そうやって静かにしていなさい。病人は、大人しくしているのが務めなのだからな……」






この薬が効いたのか何なのか、望美の風邪は、翌日にはすっかり完治してしまっていた。
有川兄弟などは、彼女がたった一日で風邪を治してしまったと知ったとき、どうやったのかしきりにその方法を知りたが
ったが、望美はこれには断固として答えなかったという。




05/3/15


「コトブキソウ」様にて、2万Hitの記念フリーと聞いて
初強奪(…)してしまいました
リズ神子ラブラブ〜vvv いや、いいですよ!!(力説)
こんな事してもらえるなら、私もカゼひきたい…げふげふ
皆さんもそう思いますよね!?
幻斎様、心の保養をさせてもらいました!
ありがとうございました!



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