after festival 

 
 ぱたりと勢い良くベッドに倒れこんで、月森は、ほぅ…っと大きく息をついた。
 なんだかとりとめもなくいろいろなことを考えながら入浴したせいで、いつもより随分長風呂になってしまった。
 別にのぼせたわけではないが、起き上がる気がおきなくてそのまま目を閉じる。

 今日はいろいろなことがありすぎた。
 頭が混乱しているというほどではないが、大きなできごとが立て続けで。
 身体は疲れているのにとても興奮している。

 そしてその最たるものは。

 恋の成就だった。




 最終セレクションの演奏は、自分にとっても挑戦だった。
 ずっと満足に足る演奏ができた事のなかったパガニーニの『24のカプリース』第24番。
 この曲を弾こうと思ったのは、香穂子の今までの努力を見てきたから。
 そしてこのまま彼女が同じ道を歩んでくれると言ってくれたから。
 ならば自分もそれに応えたい。
 未だ満足いくとは言い切れなかった曲をなんとしても弾き切りたかった。

 結果としては2位だったが。
 …香穂子に敵わなかったが。

 それでも、今の自分のせいいっぱいを表現できたと思う。
 香穂子に今の最大限の自分の姿を見せることができたと思う。

 だから、後悔はない。


 ただひとつそれとは違う後悔があるとしたら。
 それは香穂子に先に告白をされたことだろうか。


 そこまで考えて、思わず頬が熱くなる。
 実際に口に出して言ったのは自分だが、そのきっかけを作ってくれたのは香穂子の方だ。

 コンクール終了後に自分にだけ聞こえて来たという『愛の挨拶』。
 たぶんリリのお節介の産物なのだろう魔法のかかった曲。

 香穂子の奏でてくれた『愛の挨拶』は確かに香穂子からの告白だったから。
 告白はどうしても男からでなければという気はないが、やはり自分の方から言いたかったかもしれない。
 本当はこのセレクションに優勝して、なんというか…勢いをつけて、香穂子に自分から言いたかった。
 だから2位と判った時、思わず告白を止めようかと一瞬だけ思ってしまった。
 このタイミングを逃したら、次に自分がこんな風に気合を入れて香穂子に気持ちを言う機会などなかなか作れないと
判っていたけれど。

 …そう考えると、結果として香穂子が『愛の挨拶』で自分を呼び寄せてくれたのは、とてもありがたかったと思うべき…
なんだろうな。



 それにしても。
 すごく緊張した。
 たぶん今までにないほどに。
 この先、どんなことがあっても今日の緊張感を凌駕する出来事はそうはあるまい。
 セレクションやコンクールの舞台の方が余程気が楽だった。
 出会った頃より随分と良好な友人関係を築けていたとは思うが彼女の気持ちがこちらに向いているかといえば本当
にそうだとは限らない。
 実は彼女にとって、『月森 蓮』は恋愛対象とは見られていないことだってありえる。
 それはとても怖かった。
 でも、それ以上に自分がただのいい友人という関係を脱したかった。

 だから、告白した。


 今考えればなんだかとてもとりとめのない告白になってしまった。
 回りくどいというか、なにを言い訳しているんだというか。

 …はっきりとただひとこと、『きみが好きだ』と言えばそれでよかったはずなのに。

 ああ、でも、彼女が嬉しそうに笑ってくれたから、そんなに気にしなくていいのだろうか。




 ゆっくりと睡魔が訪れてきた。
 ぼけてきた脳裏に香穂子の笑顔が浮かぶ。
 屋上にたどり着いた自分に向けた、振り向いた時の嬉しそうな笑顔。
 もう一度俺のためにヴァイオリンを弾いて欲しいと言った時の照れくさそうな笑顔。
 そしてその後、好きだと言った時の、恥ずかしそうなはにかんだ笑顔。

 ふっ、と口元に笑みが上る。
 怒られるかもしれないが、とても可愛かった。

 今日からその笑みは、すべて俺のもの。



 …すぅぅ…っ、と、眠りに引き込まれていく。
 夕べはなんだか緊張して、よく眠れなかったから。


 …ああ、しまった、まだ時間割を合わせていない。


 …灯かりも消さないと……。



 …だめだ、起きられない…。



 …仕方ない、明日の朝…。


 …そうだ、明日の朝は…。

 明日の朝は、香穂子を家まで迎えに行くと約束したんだ。
 恋人として、迎えに。 一緒に登校するために。


 その時、訊いてみようか。
 『挑むべきもの』というテーマでカンタービレを選んだきみの解釈を訊きたい、と言ったら、きみは素直に教えてくれる
だろうか…?
 そして。
 俺の好きなカンタービレを選んでくれた、その理由も…。



 疲れ果てた身体で、それでも穏やかな笑みを浮かべた月森は、ゆっくりと深い眠りに落ちていった。





                                               了
                                               06.05.31




さくら堂』の早瀬 美夜サマからいただきましたvv

フリーイラストとして初めて描いた爆睡月森くんを見て書いてくださったんですよ〜vv
コンクールが終わって、晴れて香穂子と恋人同士になった月森くんです
普段しっかりしている月森くんが、こんなに緊張してるのって新鮮ですよね♪


自分のコルダイラストにSSをつけていただいたのって初めてですよ!
遙かではお友達になった方から書いてもらったりしてましたが
まさに核爆弾なみのビッグイベントです

月森くんを初めて描いてね〜、ホントびみょ〜な出来で、載せるかどうか心底迷ったのに
こんなに嬉しい事があっていいんでしょうか皆様!?
今となっては、思い切って載せた自分を褒めてやりたい(笑)


美夜サマ、ホントにホントにありがとうございました♪



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