happening rouge 

 
 先輩とのデートに行こうと部屋を出た途端、廊下でお姉ちゃんと鉢合わせした。
 思えば、それがマズかったんだ。
「ちょーっと待って。 」
 突然腕を掴まれて何ごとかと振り向くと、お姉ちゃんはにやりと笑っていた。 
「これからデートなんでしょ。 ちょっとカオ貸しなさい。 」
「なによ。 急いでるんだけど。 」
 お姉ちゃんは私の言うことなんかまるで無視して自分の部屋へ引っ張っていった。
 そして3分後。
「ちょっ、おねーちゃんってば、ナニしてくれるのよー! 」



 駅前で待ち合わせをしていた王崎は、大慌てで走って来た恋人を笑顔で迎えた。
「お待たせしました! 」
「そんなに慌てて走ってこなくてもいいのに。 」
 肩で息をしている香穂子は、どうやら家から走ってきたらしい。
 はぁ、とひと息ついて顔を上げると、王崎はふと気付く。
「…あれ、かほちゃん、ひょっとして。 」
 途端に香穂子が真っ赤になった。
「きっ、気にしないで下さい! お姉ちゃんに遊ばれたんです! 」
 思わず口元を鞄で隠す。
 真っ赤っかに染まった顔のその唇には、今日のブラウスとお揃いの桜色の口紅がつけられていた。
 その鞄をひとさし指でひょいと下げて、王崎は香穂子の唇をもう一度確認する。
 そして、にっこり。
「似合ってるよ。 可愛いね。 」
 さっきとは違った意味で顔が火照るのを自覚しながら、香穂子はどうもありがとうございます、と消え入りそうな声で
礼を言った。



 それから数時間後。
 香穂子は少し不安げだった。
 ずっと王崎が自分の顔を見てくれないのだ。
 会った時こそ笑顔だった王崎だが、ふと気付くと視線を逸らしている。
 気のせいでないのは間違いなかった。
 ペットボトルのジュースを飲んでいた時、じっと自分を見ていたのに気付いて彼を見たら、慌てたように他所を向いた
から。
 ……何故?
 原因なんてひとつしか思いつかない。
 口紅のせいだ。
 姉が面白がって塗った口紅のせいに違いない。



「なにするのよー! 似合わないに決まってるでしょ! 」
 目を瞑れと言われてされたことに文句を言う香穂子に、姉はにやにや笑った。
「だってこれからデートなんでしょ? 姉からのささやかなプレゼントだと思いなさい。 」
「莫迦言ってないでよ。 取るからね! 」
「あ、それ、落ちにくい口紅だからティッシュで拭くくらいじゃとれないよ。 」
 ティッシュを抜き取ろうとした手を止めて、香穂子は姉を睨む。
 まったく意に介さない姉は平然と言った。
「この口紅、今年の春の新色なのよねぇ。
買ったはいいけどどうもあたしには似合わなくてさー。
王崎さんの評判がよかったらこの口紅あげるから、試しにつけてってみなさいよ。 」
 香穂子だってお化粧にまったく興味がないわけではない。
 だが、自分はまだそれが似合う年だとは思わないし、あまり背伸びをしない方が自分のためだということも判ってい
た。
 それでも口紅をあげるからと言われて、香穂子は思わず溜息をついた。



 やっぱりお姉ちゃんのいうことなんか聞くんじゃなかった。
 きっと王崎先輩、私が無理な背伸びをしてるって呆れてるんだ。
 大学のお姉さん達を気にしてオトナっぽくしようと思って口紅なんかつけてきたって。
 お姉ちゃんの莫迦!
 デートがちっとも楽しくないじゃない!
 ちょっと半泣きな気分で王崎の隣を歩く。
 ケンカしたわけでもないのになんだか気まずい。
 こんなの嫌だ。

「先輩。 」
「ん? 」
 返事をしてくれるも、こちらを向いてはくれない。
 香穂子は立ち止まった。
「先輩、私の口紅、いや? 」
 王崎の足が止まった。
「顔も見たくないくらい、いや? 」
 目に涙がにじみそうになるのを必死に我慢する。
「だったら私、もう口紅なんかつけない。
だからこっちを向いて下さい。 お願いですから。 」
 一瞬王崎が固まった、ような気がした。
 きゅっと眉根を寄せて目を閉じる。
 そして。
「…違うよ。 」
 ぼそり、とつぶやいた。
 え?と顔を上げた香穂子は、突然腕を掴まれて歩き出す王崎に引っ張られて慌ててついて行く。
 歩道を通り越し、建物の影に連れ込まれた。
 なにごとかと思う間もなく、壁に背を向けて肩を押さえつけられる。
 不安に駆られた香穂子が無言の王崎に問い掛ける。
「せんぱ…っ!? 」
 しかし、その言葉は最後まで口には出来なかった。
 唇を奪われていたから。
 あまりに突然で、閉じるどころか思わず大きく目を見開いてしまった香穂子は、キスなんか何度もしているはずなのに
頭が真っ白になってしまう。
 やがて離れた王崎の方もまるで初めて口付けたように真っ赤になっていた。
「………ごめん。 」
 つぶやいた王崎の声に我に返った香穂子は、まじまじと真っ赤な彼氏を見つめてしまう。
「なんていうか、その…、ものすごくキスしたくなっちゃったんだ…。 」
 恥ずかしそうにつぶやく。
「口紅、初めはホントに可愛いって思っただけだったのに、なんでかな、一度気になったらものすごく気になっちゃって
…。 
女の子のお化粧した顔なんて大学で見慣れてるし、今更なんでと思ったけど、かほちゃんの唇にしか目が行かなくなっ
ちゃって、それが恥ずかしくなって顔をみられなくなっちゃったんだ。 」
 うつむいてしまった王崎は耳まで真っ赤で、めちゃくちゃ恥ずかしそうだ。

「…よかった…。 」
 ため息と共に聞こえた香穂子の声に、王崎は顔を上げた。
 張っていた気が抜けて、普段の柔らかい香穂子の笑みが戻っていた。
「先輩に嫌がられちゃったのかと思っちゃった…。 」
 微笑んだ香穂子に王崎は慌てて言う。
「そんなことないよ! ホントに可愛いよ。
……本当に、ごめんね。 」
 今度は軽く、触れるだけのキスを落とす。
 仲直りに抱き締める。


 香穂子を抱き締めながらふと思う。
 口紅だけでこんな反応してたら、おれ、かほちゃんがきちんと綺麗にメイクしてきたらどうなっちゃうんだろう。
 勢い余って押し倒しちゃいそうだ。 …おれってばなんてコト考えてるんだろ。
 きっと綺麗だろうな。
 うーん、でも、普段はあんまり綺麗過ぎない方がいいかな。
 だって、かほちゃんを残して大学を卒業するのがものすごく不安になっちゃうよ。
 今だって結構心配してるのに。
 これ以上かほちゃんがもてないよう、早く……きみを独り占めしたいよ。


 王崎に抱き締められたまま、香穂子がくすりと笑った。
「この口紅のキャッチコピーの通りになっちゃった。 」
「なんていうの? 」
「“キスしたくなる唇” っていうんです。 」
 思わず赤くなった王崎を笑った香穂子に、ささやかな意趣返し。
 耳元で甘くささやく。
「じゃ、おれといる時以外にその口紅使っちゃダメだよ? 
かほちゃんにキスしていいのはおれだけだから、ね? 」
 かぁっと赤くなった香穂子は、それでも嬉しそうにうなずいた。





                                              了
                                              06.04.20

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さくら堂』の早瀬 美夜サマから、サイト1周年のお祝いに頂きました〜

いやちょっと、マジでどうしよう!?
こんな、フリーにされていたワケでもないのに
「お好きなものを1つどうぞ」とか言われちゃったよ!!
そんで図々しくもソッコーで頂いちゃったwwいやーんww(≧▽≦)(管理人壊れ気味)

初めての王崎先輩です
先輩の、香穂ちゃんの口紅姿に対する反応が可愛すぎる…!
どこまで可愛かったら気が済むんですか先輩!!


 あの、あのですね、私の萌えポイントは「なんていうか、その…」ていうあれ!
あのあたりのセリフ、小西さんの声を脳内で合わせたらすっごい萌えた……!!(超小声)
 

早瀬サマ、ホントにありがとうございました(≧▽≦)



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