夏の足音





あかねは。

薄桃色の髪を揺らしながら
元気いっぱいな足取りで山道を進み
時折振り返り後ろを確認しながらまた進む。
そこにいるのは、静かにそんなあかねを見守る友雅。
何度かそれを繰り返し、合間に


「友雅さん〜。こっちこっち!」


と、後ろをついてくる友雅に手招きする。
最初の数回は追いつこうと足を早めたりしてそれに答えたが
何度も繰り返されるそれを途中から微笑んで手を振るようになる。


「若いねぇ、神子殿は。」


小さくそう呟いたが、勿論当の本人には聞こえない。
そしてまたどんどん先に進んでいく。
武官として多少の鍛錬はしているものの
普段町の移動には牛車や馬を使う為
あまり長く歩くという事には慣れてはいない。
少しあがってきた息とむくんできた足をみて


「私も歳かねぇ。」


と自嘲気味に微笑う。
太陽のひざしをいっぱいに浴びたあかねが友雅にはとても眩しい。

四神の封印も、あと青龍を残すのみとなった。
そして、それが終わったら・・・

あかねがこの京にいられる時間が・・・
もう残り少ない事は、友雅にはもう判っていた。
そしてあかね自身も判っているだろう。









---穢れも全部浄化したし、たまには息抜きしませんか?



普段、友雅から誘うことはあってもあかねから友雅を誘うというのは初めてだった。
その時、友雅はクラリと眩暈を覚えた。

・・・残された時間が少ないなら後に残る想い出など作らないほうがいい。
・・・いっそ心のかけらなど見つかっていなければ。



断る理由を探す間にあかねは
友雅の腕をギュッとつかんで引っ張った。



---とても景色のいい場所をみつけたんです。
   まぁ、友雅さんは知ってる場所だと思いますけどね。



友雅の答えがイエスと信じて疑わないあかねはグイグイと引っ張りあげる。
結局うまく言葉がみつからないまま、友雅は外に連れ出された。








「友雅さん〜。早くしないと置いていきますよ〜。」


あかねがくるりと振り返る。
愛くるしい瞳を輝かせながら。

友雅はまた、心を閉ざし上辺だけの微笑を作り手をひらひらと振る。

あかねはまた安心したように前に進みだす。


そのままあかねがどこか遠くにいってしまいそうな錯覚。
友雅は思わずあかねの背に向けて手を伸ばした。
しかし、すぐにそれを思い直す。


---まだまだ私には幼い姫君ではないか。何を躊躇う必要がある。
---明日にも月へと帰るかも知れない姫君に、何故この私が乱心する必要がある。
---どんなに手を伸ばしたとしても届く筈もない・・・。


伸ばした手をそのまま引き戻し、眩しそうに目にかざす。
まるで、その光に溶かされそうな気がしたから。



暫くしてまたあかねが立ち止まり
また同じように振り返る。

そして、またあかねは友雅の名を・・・
呼ぼうとした所で思い直し、にっこりと笑い友雅の元に駆け寄ってくる。
何があったのかと友雅は立ち止まる。


縮まる二人の距離。


もう一歩、あと一歩。

もう少しで友雅の間合いに届く。
・・・そう思った瞬間。
落ちていた小石に足元をすくわれ態勢を崩す。
友雅は躊躇わずに地面を蹴り、手を伸ばす。
そしてそのまま友雅も平均を失うと
そのまま腰から落ち、あかねがそれに引っ張られる形で覆いかぶさる。



「イタタタ・・・。友雅さん、ゴメンナサイ。大丈夫ですか?」



友雅の懐の中であかねは
悪戯っぽく微笑みながらも軽く頭を下げる。



「やれやれ。危なっかしい姫君だ。」



そういいながら、友雅は無意識に
あかねの肩を抱いてしまっていた事に気がつき
自然にそれをそらすようにおろし、その手を地面について体を支える。
まだあかねが上にのったままなのでそのまま立ち上がることは出来ない。



「すみません〜。友雅さん遅いから迎えに行こうと思って・・・。」



もごもごと口ごもる。
なかなかどこうとしないあかねの顔を覗き込む。
あかねは、あっと気づいて
そこから慌てて離れようとして・・・

それを止める。



「どこか怪我でもしたのかね?」



優しい声で囁きかける。
あかねは頬を染めながらも下にうつむく。
そんなあかねを不思議にみつめる友雅。



「あ・・・。怪我は特にないんです・・・けど。
 あの・・・もう少しこのままでも・・・いいですか?」


どうしたものか判らないけれども
とりあえず”いつもの自分”を友雅は演じる。

「おやおや。随分大胆になったものだね姫君もこんな道の往来で。
 それは私を誘っているのかい?」


耳元で甘く囁いてみる。
いつもならここで大抵はあかねの方から離れていく。
今回もそうだと・・・思っていたのにあかねは。


「はい・・・。」


と小さく頷いた。
内心酷く驚いたが決して顔には出さずに
友雅は優しくあかねの髪をなでてやる。



「フフ・・・。まだ姫君には難しいことを聞いてしまったね。」



友雅のその言葉に、あかねは顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振る。
どうしたものかと友雅は少し考える。
そしてその答えがでるよりも先にあかねが口を開く。



「あの・・・。最近・・・友雅さんが私の事避けてるような・・・そんな気がして・・・。」



その言葉に友雅は心の中で溜め息一つ。
---なんとも勘のいい姫君だ。
それでも顔色は一つも変えることはない。



「私が?いつ神子殿を避けたというのだね?」



決して物理的にあかねを避けるという事はしていない。
だから、友雅はいつもと同じ余裕の笑みを浮かべたまま。



「絶対避けてますっ!だって最近の友雅さんは笑ってるのに笑ってない・・・。」



あかねの髪を撫でていた友雅の指先がピタリと止まる。
---この私がこの幼い少女に見透かされてる・・・?



「もうすぐ・・・終わっちゃうからですか?
 元の時代に帰れるのが近いから・・・ですか?」



言い訳ならいくらでも浮かぶのに
それが言葉にならない。
動けない。
目を逸らせない。




「・・・私、友雅さんがそんな目をしなきゃならないくらいなら帰りません。」



「何を・・・」


掠れた声を無理やり絞り出す。
それ以上の言葉が見つからない。

あかねは両手に拳を作り、友雅の胸を小さくトントンと叩く。
最初はゆっくりと・・・それが感情に任せるように徐々に早くなる。
さっきまで輝いていた瞳には、いつの間にか涙がたまり、あふれ出す・・・。


「だって・・・だって・・・私友雅さんの事が・・・」



ドンドンと、その拳が。
あかねの言葉が友雅の胸に突き刺さる。


今度はもう、躊躇わない。
あかねに手を伸ばす。
そしてそのまま強く抱きしめる。



「年寄りをからかうものじゃないよ?」

「からかってなんていま・・・」



言いかけたあかねの唇を友雅のそれが優しく塞ぐ。
突然のそれに驚いたあかねは目をまんまるく見開く。
あまりにも近くに友雅の顔がある事が急に気恥ずかしくなって目を閉じる。
それはそのまま深く、長い口付けに変わる・・・。


絡み合う吐息
甘い眩暈


暫くして漸く友雅はそれを解放する。
あかねは少しの間、余韻に浸りながら少し荒くなった息を整える。



「本当に君という姫君は・・・。」



今度は判りやすいように溜め息を一つ吐く。
あかねの眩しさは、変わらない。
今にも溶けてしまいそうに眩しい。

だけれど、それでも・・・
溶けてしまっても構わないとさえ思える自分に驚く。
それ程に愛しくて堪らない。
自分にそれ程までの情熱があったのかと初めて気づく。

あかねのせいにしつつも、最後に背中を押したのは自分自身。
耳元で、優しく、甘く囁く。


「この私を本気にしたからには、その代償は高いよ?
 こう見えても諦めの悪い男でね、私は。」



その声色に、あかねはクラリと軽く眩暈を起こしながらも
嬉しそうに微笑を浮かべて両手を広げて友雅に抱きついた。
それに答えるように、友雅もあかねを抱きしめる。



---結局神子殿は私をどこに案内したかったのだろうね。


そんな事を思いながら友雅は
夏の足音が近づく空を見上げた。 





presure』の佐々木紫苑サマからいただきました〜vv


「イラストをいただくだけじゃ申し訳ないから」って言って書いてくださったんですよ!

私なんて自分の描きたいモノを描きちらして載せてただけなのに
いいんですか、こんな嬉しい事言われて!
図々しくも『糖度高めの友あか』とかリクしちゃって自分!!

ちょっと後ろ向きになってる友雅さんに、ドーンと自分からぶつかっていく
漢前神子なあかねちゃん、かっこいいです!
でも自分から仕掛けても、最後はやっぱり友雅さんペースになっちゃうんですよね〜vv

紫苑サマ、ありがとうございました




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