妬かれる幸せ
ずんずんと先に歩いていってしまうかほちゃんの数歩後をおれは歩く。
…一体、なにに機嫌をそこねたんだろう。
「…かほちゃん? 」
「怒ってません。 」
「でも、機嫌悪いよね? 」
「でも怒ってません。 」
「おれ、なにか気に障ることした? 」
「してません。 」
「じゃ、なにが悪かったのかな? 」
「なんにも悪くありませんっ 」
…判らない。
でも、かほちゃんはなにも理由なくこんな行動には出ないよね。
つい30分くらい前までは普段どおりだったのに。
ボランティアの幼稚園での演奏会を手伝ってくれて、演奏も楽しそうにしていて。
メンバーと別れてからだ、こんな風に機嫌が悪くなったのは。
それとも、もっと前からだったのに表に出さなかっただけなんだろうか。
いずれにせよ、かほちゃんにこんな怖い顔をいつまでもさせておくわけにはいかないよね。
おれはかほちゃんの腕を捕まえて歩みを止めた。
でもかほちゃんの顔は向こうに向いたまま。
おれはそのままかほちゃんを後ろから抱きしめる。
右手のヴァイオリンが邪魔だけど、仕方ない。
「教えて、かほちゃん? 」
耳元で、できるだけ優しく言ってみる。
お願いだから、教えて?
だって気になるんだ。
かほちゃんの耳が見る間に真っ赤に染まった。
「…ずるい。 」
ぼそっと微かに聴こえた声に、えっと聞き返すけど、かほちゃんはそれには答えてくれなかった。
かわりに。
「……だって、あの青組さんの先生となんだかとっても仲が良さそうだったんだもの… 」
おれは、思わずかほちゃんを凝視してしまった。
それって……もしかして、やきもち?
…うわ。
どうしよう、頬が緩みそうだ。
なんていうか、その…めちゃくちゃ嬉しい。
だって、妬いてくれるってことは、ちゃんとおれのことを好きでいてくれてるってことだから。
でも、ここで喜んじゃったらもっと機嫌を損ねるかな?
「そっか、言ってなかったっけ。
あの先生はね、バイト仲間の石原って知ってたよね? 彼のお姉さん。 」
「え? 」
「ついでに言うとね、来月結婚するんだって。 それでお祝いを言ってたんだ。 」
一瞬かほちゃんが固まったような気がした。
かと思うと、うつむいて両手で顔を隠してしまう。
「誤解は解けた? 」
恥ずかしそうにしているかほちゃんが、ものすごく可愛くて、愛しい。
耳まで真っ赤にしてうつむいたままくるんとおれの方を向いたかほちゃんは、照れているのか顔を見せては
くれないけど、そのままおれの胸に擦り寄ってきた。
「……ごめんなさい。 」
「どういたしまして。 」
もうあまりに可愛くて我慢できなくて、おれはかほちゃんを抱きしめた。
こんな可愛い妬き方してくれるなら、やきもちも悪くない…なんて言ったらまた怒られそうだけど。
了
06.07.11
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『さくら堂』の早瀬美夜様より、いただいてきました王香です〜
つか〜・・実は美夜姐さんのお誕生日のお祝いにイラストを差し上げようと思ってたんですが
今回なぜかちっとも構図やらキャラやら浮かんでこず;;
延々考えてがんばって描き上げた結果、
すでに3ヶ月もたっていました・・・・・orz
ホントにごめ〜ん美夜さん〜!!!
こんなん、オイラ爆破されてもしょうがないよ〜
・・まぁそんなワケで、その際に描いたのが、この『妬かれる幸せ』の王香でございました
そして物々交換的にSSをいただいてきましたv
あまりに申し訳ないのでオマケもつけてお買い得感を醸し出そうと(アホめ)
まるでいらん努力ですが(笑)
ホントにいつもありがとうございますw
ウチのサイトのSSページは、もはやさくら堂さん出張ページと言ってもいいくらいですw
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